裾野市の子育て世帯向け情報配信サービス「すそので子育て!」はどうやって開始1年で70%を超える利用率を得られたのか?
サービスインから1年の節目に、開始当初企画政策課で事業を担当され、現在は子育て支援課の眞田 さおり氏、情報政策室の中原 義人氏をむかえ、本事業のコンサルティングを担当したソフトバンクの徳永 和紀がこれまでの振り返りや今後の展開などをお聞きしました(以下、敬称略。2017年2月14日取材)。
裾野市
健康福祉部 子育て支援課
係長
眞田 さおり 氏裾野市
企画部 企画政策課
情報政策室 主席主査
中原 義人 氏ソフトバンク株式会社
徳永 和紀
徳永:若干ご無沙汰しております。本日は「子育て支援アプリをどうやって今のような利用率まで引き上げたか?」というハウツーを、今回の談話を通じて「市民の利用者視点で情報配信サービスを作りたい!」とういう各市区町村担当者に向けて実施したいと思います。
早速ですが、プロジェクト発足当時のコンセプトをお聞かせください。
眞田:裾野市でも子育て中の市民の皆さまと行政とのコミュニケーション強化には力を入れてきましたが、思うように情報が市民に届いていない課題を抱えていました。そこで市民視点ではどうあるべきか、という原点に立ち返って政策立案を行いました。
徳永:そうでしたね。お取引前から「まだしっかりと市民サービスができてない個所がある」と課題認識を持たれていた裾野市職員の皆さまは、私の記憶によく残っております。と申しますのは、正直な話、どんな業種でも負担が増えることに抵抗を持つ方が多いという実感があるからです。入札前にご縁があるかはわかりませんでしたが、「市民への想いを持っている方を応援したい」という気持ちを陰ながら抱いておりました。やはり事業主体は行政が行うものなので、行政側にきちんとやりぬく担当者がいらっしゃらないことには事業の成功率は下がるからです。
中原:いえいえ、恐縮です。入札後、本格的に「利用者視点で顧客接点を再構築する」というコンセプトから具体的なアプリケーションのUI、それを具現化するシティプロモーションやイベント企画のアイデアなど助言を受けつつ、同時並行で仮説に基づく子育て世帯のニーズ調査をアプリのUI開発前にしっかり行いました。
徳永:そうでしたね。具体的に誰をターゲットにするか?6歳以上の子供の対応は含めるか否か?などサービス設計について多くの関連部署も巻き込んで議論しましたね。たしか関係部署は6部署あって、最初はまとめるための会議に苦労しましたね・・・。
中原:そうですね、その節は司会進行などプロジェクトマネジメント、助かりました。また、そうした会議をまとめるためにもまずは事実が重要ですから、ターゲットを小学校入学前までの0~6歳児のいる家庭に絞り込むことで一度庁内で合意形成をし、そのアンケートを子育て世代の市民に実施しました。結果、約84%がスマートフォンユーザだと判明し、予想していた数字とは異なった職員もいたので調査の重要性を実感しました。
眞田:私も2人の子育てをしていますから、子育て世帯と同じ視点があります。単にパッケージを入れるのではなくて、裾野市の皆さまにはどんな情報が、どのようにあったら嬉しいか?をきちんと調査したことがこの政策が市民に評価された一因ではないかと思います。
徳永:外部からコンサルティングで入っている私から見ても、プロジェクト全体の意識が統一された分岐点は、アンケート結果が出た時と感じました。月並みな意味ではなくプロジェクト自体に自ら生み出した共通意識、共通言語ができることはチームでの仕事を楽しく、スムーズにさせますね。
それと具体的なUI画面です。やはりこれがあると意見が活発になりますよね。
眞田:はい、そう感じております。子育て世帯のニーズとずれていれば、どれだけ高機能のアプリケーションを作っても使われないのは当然です。小難しい機能や画面ではなくて、操作に慣れていない方でもちゃんと使える、使いたい、応援したいサービスが市民が本当に求めるものだと思います。
中原:今回のサービスでは、特に利用者される市民の視点を踏まえてUI設計を進め、紙のアンケートだけの調査結果だけではなく、イベント実施時に対面で意見を聞くなどの工夫もした結果、トップ画面にはニーズの高い順に「保育園・幼稚園へ入園したい」「補助金・給付金を知りたい」「予防接種を知りたい」「イベントに参加したい」「防災・防犯について」「子育てのコツ」「子ども救急相談など」の7カテゴリを設けています。市役所では別々の窓口に行かなければ得られない情報を一元的に取得できるようになり、運用後には窓口でのお問い合わせが減少するといった効果が出ています。議論が煮詰まり、机上の空論で考えがちになった時に徳永さんが「そもそも、その機能は誰がなぜどうして使いたいのか?」「利用者に実際にヒアリングしたか?」など、一緒に解決策を考えてくださったことはとても心強かったです。
徳永:情報更新をどのようにリアルタイムに行うか?ここもかなり議論がでましたね。結果的に追加業務が少し発生するわけですから、関係部署に協力を得なければなりません。
眞田:はい、その通りです。やはりそのときも行う意義と効果、定量定性調査データがあり、アプリUIのプロトタイプがあったため、各部署と論理的な対話が実現しました。このデータとUIはとても重要なカギとなりました。結果、各部署の担当者がデータを元に情報を定期的に更新する運用ルールを策定、定着させることができました。「意義」と「狙う成果(KGI)」がしっかりとあったことで、市民のためにさまざまな関係部署が積極的に協力してくれるようになりました。
中原:現在のダウンロード数は1,477回で、想定する子育て世帯の2,500~2,600世帯の約60%がダウンロードしています。さらに、スマートフォンの利用率や家庭数(6歳未満の子どもが複数いても1とカウント)を勘案したターゲット数2,100世帯で計算すると、70%を超えるダウンロード数となっています。「すそので子育て!」にはスマートフォンのプッシュ通知機能を利用して、子育て世帯の方に向けたイベント情報を発信していますが、子供向け英会話講座「英語DEリトミック」などの人気イベントを通知すると1日で300~400アクセスの反応があります。システムのログ情報に基づいて、政策の効果を具体的な数字で把握できるのも「すそので子育て!」のメリットだと思います。
徳永:アプリのサービスイン前に、苦労していろいろメディアリレーションプランを実施した甲斐がありましたね。
眞田:戦略広報課も全面的に協力してくれて、事前にどのメディアがどのような効果があるか?などを徳永さんから助言を受けていたこともあり、地元の静岡新聞ではWeb版でも取り上げてもらい、チーム全体で本事業に取り組んだことが高い利用率を継続できているコツだと思います。
裾野市が主催するイベント会場で実施したアプリ利用促進活動と対面アンケートの実施
徳永:現在はイベント企画やアプリへのプッシュ通知、レポート数字を読み込んでの改善策の実施などを全て裾野市主体で進めていると思いますが今後、こうした裾野市での情報配信事業はどのような展開をお考えでしょうか?
中原:まずは近隣の県内市区町とイベントなどで連携し、よりよい事業にしていこうと思います。市民視点で見ると近隣の市町で行うイベントも魅力的に感じると思います。あとは適宜、助成金などの改変情報は迅速に対応して市民の皆さまに伝えられればと準備しております。
眞田:これまでも「すそので子育て!」に興味を持たれた複数の自治体から視察を受け、「うちでもこうした政策を実施したい」と言っていただいています。隣接する市や町と連携したいのはもちろんのこと、静岡県全体にも普及させたいと思っています。
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