プレスリリース 2007年

電波の生体への影響を調べるための共同検討における実験結果のご報告
~携帯電話基地局からの電波の安全性を再検証~

電波の生体への影響を調べるための共同検討における実験結果

本細胞実験は、携帯電話基地局の電波の生体影響を評価することを目的に実施しました。実験に使用する電波照射装置はドコモが設計・開発し、ホーンアンテナと誘電体レンズを組み合わせた開放型電波照射システムを取り付けた細胞培養装置で、第三世代移動通信システム(IMT-2000)で規定されるW-CDMAの電波を発生させることができます。また、装置の特徴として、照射装置に49枚(電波照射、非照射を合わせて98枚)の培養皿を設置することが可能であり、電波を照射する群と照射しない群を同時に実験できるため、電波照射を評価した従来の研究と比較して、大規模な実験ができ、多様な細胞変化を同時に評価することができます。この電波照射装置については、2004年に国際学術論文誌のBEMS Journalに審査を経て掲載されました(Iyama et al., BEMS 25: 599-606, 2004)。実験は三菱化学安全科学研究所鹿島研究所の専用実験室で行い、照射装置は外部の電波を遮断可能な電波暗室に設置しました。実験には、原則として由来の異なる複数のヒト細胞を使用しました。一方は正常ヒト胎児あるいは小児由来の細胞で、他方はヒトの脳腫瘍由来の細胞です。

電波照射は携帯電話基地局の電波に対する防護指針値を基準に、電波強度を等倍から10倍の範囲で行い、また、電波照射の時間は各評価項目について予備実験を行った上で感度良く変化を検出できる時間を設定しました。実験では、電波を照射した時(電波照射群)の変化を、電波を照射しない時(非照射群)と比較しました。

判定する項目は、従来の論文等に報告されている項目から、社会的リスクに対する安全性を評価する場合に必要となる項目に、高い関心がもたれている発がん性に関する項目を加えた下記5項目を主要課題と判断し選択しました。

  1. 【1】 細胞の増殖

  2. 【2】 細胞のDNA鎖切断に対する影響

  3. 【3】 細胞のがん化作用(形質転換)

  4. 【4】 遺伝子の働き(遺伝子発現)

  5. 【5】 ストレス、及び細胞死の誘導(情報伝達)に対する影響

(【1】、【2】と【4】の一部の結果については、既に中間報告済であり、【3】、【4】の一部と【5】について、今回追加して報告しています)

評価項目【1】ならびに【2】は従来から用いられている基本的な評価です。評価項目【3】のがん化作用に対する評価実験では、現時点でヒト由来の正常細胞からがん化細胞を形成させる試験法が確立されていないため、評価手法が標準化されたマウス由来の細胞を使用する実験手順に従って最大41日間電波照射し,細胞のがん化について評価しました。電波の照射時間が最大で96時間であった他の評価実験と比べて、極めて長い期間電波を照射し,その影響を評価しました。評価項目【4】の遺伝子の働きの評価では、従来法による評価(項目【1】や【2】)とは異なる最新の分子レベルの評価にまで踏み込み、約40,000種のヒト遺伝子を網羅的に測定できるDNAマイクロアレイを使用して、細胞の増殖に関与する遺伝子の働きならびにストレス、および、細胞死に関連する遺伝子の種類と働きの変化を同時に測定しました。この測定は、遺伝子の働きを判定する方法として生命科学分野でも最新の技術です。評価項目【5】のストレスに対する評価は、ストレスによって誘導されるHsp27というタンパク質の変化を指標とし、また、細胞死の誘導に対する評価は、p53というタンパク質の変化(第一段階)、p53が変化した場合のさらに細胞死に至るまでの情報を伝達するタンパク質の変化(第二段階)並びに、細胞死によって生じる細胞の変化(第三段階)の3段階の変化を指標に実験を行いました。

以上の評価項目について電波照射実験を行った結果、防護指針値を基準とする電波強度の等倍から10倍の範囲の電波が、【1】細胞の増殖、【2】細胞のDNA鎖切断、【3】細胞のがん化作用、【4】遺伝子の働き、【5】ストレス、及び細胞死の誘導に影響を与えないことが科学的に確認できました。遺伝子の働きとしては、細胞の増殖、ストレス、及び細胞死に関連する遺伝子をはじめ、がん化に関連する評価に関し、実験に用いた細胞で働いている約20,000遺伝子に対して、電波の影響のないことが確認されました。本共同研究の成果は、生命活動の基本である細胞増殖とそれに関わる遺伝子の働き、並びに、発がんに関連する細胞内の変化とそれらに関わる遺伝子の働きに携帯電話基地局の電波が影響しないことを再確認したものです。

本共同研究の詳細な結果と成果については、過去3年間に国際的専門学会のBioelectromagnetics年会を中心に研究成果を発表してまいりました。また、研究成果をまとめた3報の論文が、国際学術論文誌のBEMS Journalに内容を審査・評価され、受理・掲載されました(Sakuma et al., BEMS 27: 51-57, 2006, Hirose et al., BEMS 27: 494-504, 2006, Hirose et al., BEMS: in press)。


電波照射装置

細胞実験風景
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